「価値がある/ない」という価値判断
一般的に「価値あるもの」の方が「価値のないもの」に優先する
「価値」を「意味」と言い換えてもよい

「このダイヤモンドには100万円の価値があります」
「この石ころには価値はまったくありません」
「人のために尽くすこと（他利主義）には価値があります」
「自分のことしか考えないこと（利己主義）には価値はまったくありません」
「A（をすること）には意味があるけれどもB（をすること）には意味はない」

あたかも「あるもの」の中に「価値（意味）」が存在しているような言い方
何をどう考えても「あるもの」の中に「価値」など存在しない
言語哲学的に考えても「犬」というものの中に「イヌ」という意味は存在しない
「白」というものの中に「シロ」という意味は存在しない
もし世の中に「犬」しか存在しなかったら、「白」という色しか存在しなかったら、
それぞれ「犬」や「白」という概念すら存在し得ない

「犬」も「白」も、他との差異によって価値、意味が発生している
「犬」は「猫」と違うから「犬」として認識され、「白」は「黒」が存在するから「白」として存在可能となっている

価値（意味）を支えているのは「差異」なのだ

「可愛い女とそうでない女、可愛い男とそうでない男」
「賢い女とそうでない女、賢い男とそうでない男」

一般的には前者が好まれるだろう
これとて「可愛い女」の中に「可愛さ＝価値」が存在しているのではない
ブサイクな女が存在するからこそ「可愛い女」が存在できるのである

では「可愛い」「ブサイク」という価値判断、「ダイヤモンド」と「石ころ」の差異はどこから来るのか？

それは単なる「大衆の恣意的な気分」からでしかない
要するに「皆が価値あると思っているから価値があるんだろう」という全く主体性のない思考停止から価値（意味）が発生している
「皆が欲しがってるから（多分）価値があるんだろう」という思惑
この場合、ほとんどが（多分）という部分は無視されている

「希少価値」という言葉がある
「数すくないものには価値がある」という勝手な思い込み
「ダイヤモンドは数が少ないから価値がある、石ころはそこら中に転がってるから価値がない」という思考
「可愛い女の方がブサイクな女より数少ないから価値がある」という思惑

一体誰が「数少いから価値（意味）がある」と裁定したのか？
石ころだって、どれ1つ取っても同じものはない
女も男も、誰1人同じ人間はいないはずだ

何だって誰だって、他のものとは決定的に「差異」があるはずだから、
その差異の中に「価値＝意味」を見出すことは可能であるはずだ
何だって、誰だって「希少価値」を有している

しかし現実には至る所で「価値判断」が行われている
しかも、その価値判断は「恣意的」であるだけでなく、「権力」によって大きく左右されている

「殺人」に対する価値判断
通常は「死刑」に相当すると判断される

しかしチャプリンは「殺人狂時代」で語っている

「1人殺せば殺人者で、（戦争で）1000人殺せば英雄だ」

僕らはこういう「価値判断＝文化」の中で常に生きている

繰り返そう

「可愛い女とそうでない女、可愛い男とそうでない男」
「賢い女とそうでない女、賢い男とそうでない男」

「イイ身体をした女とそうでない女、イイ身体をした男とそうでない男」
「優しい女とそうでない女、優しい男とそうでない男」
「ズルイ女とそうでない女、ズルイ男とそうでない男」
「強い女とそうでない女、強い男とそうでない男」
「ダメな女とそうでない女、ダメな男とそうでない男」
　　　　　　　　・
　　　　　　　　・
　　　　　　　　・
　　　　　　　　etc

現実問題として常に／既に我々は文化（＝権力）の中でしか生を保てない
しかしその中でのこれらの価値判断、差別化は「お仕着せ」以外の何物でもない

現実に
「可愛い女とそうでない女、可愛い男とそうでない男」
「賢い女とそうでない女、賢い男とそうでない男」
は確かに（強制的に）文化の中で現象させられている
単純に平たく言えば「可愛い女／男」も存在すれば「そうでない女／男」も存在する
「ダメな女／男」も存在すれば「そうでない女／男」も存在する

しかしこれら価値判断は「価値ある女／男」の弁別に直結しはしない
肝要なことはそれぞれが他とは異なる唯一物（者）、すなわちindividualとして、
それぞれの今の存在様態に対してどのように接しているかではないのか？
どのように「そうした自分」に向き合っているのかではないのか？
「価値あるもの」を「価値あるもの」に現象せしめるのは、「対自己」という関係性に存在するように思う
僕らは僕ら自身に対する「思考」を止めてはならない